ほんの記録

読書日記など、とりとめもなく

依田高典『「ココロ」の経済学』(4)

ようやく読み終えました。

平日は1週間かけてやさしい新書を1冊読み切るのがやっとだなぁ。 

 

さてさて、第4章は「利他性の経済学」。
最新の研究によるとどうも人間には「利他性」という性質が備わっているらしい。であれば、経済学も利己性に基づく人間像を離れ、他人の利得を自分の効用として感じる利他性を行動動機として備えた人間像を基礎に置くべきではないか、とのこと。

第5章は「不確実性と想定外の経済学」
有名なナイトの「リスク」と「不確実性」の区分を引いて、不確実性に直面した人間は合理的な判断をしない、という話。

第6章は「進化と神経の経済学」
経済学の新しい潮流、進化経済学と神経経済学の紹介。

そしてラスト第7章は「行動変容とナッジの経済学」
リバタリアンパターナリズムと「ナッジ」の紹介。ナッジ(気付き)とは何か。こんな説明があります。

選択が選択肢の与えられ方に依存する以上、為政者は人間の選択の自由を認めつつも、彼らが後悔しない選択肢を選ぶように選択肢の与え方を工夫すべきではないでしょうか。(p180)

…例えば、税金滞納者に税金を支払うように督促するために、「イギリスの納税者のほとんど(90%以上)が税金を期限内に支払っている」「あなたはまだ納税していない少数者の一人です」というメッセージを手紙で添えるというフィールド実験を行ったところ、税金の納税率が5%以上も高まったといいます。(p181)

これは面白いですね。
ただ、注意しないと、完全な選択の自由の中での選択だと思っていたら実は巧みに誘導されていた、なんてことにならなければいいとは思います。

最後に、著者は従来の「主流派経済学」に「エビデンス経済学」を加えることを提唱しています。

  1. 主流派経済学(伝統的な経済学)
    ミクロ経済学
    マクロ経済学
    計量経済学
  2. エビデンス経済学(新しい経済学)
    行動経済学
    ・実験経済学
    ビッグデータ経済学

正直、両者の関係が今一つピンとこないところはありますが、これは「これほど主流派経済学の分析力と異端派経済学の分析力に差がついた今、主流派経済学に反対のための反対をしても、得るところは少ないと思います(p186)」という著者の状況判断のためこのような形をとった、という理由もあるのでしょうね。

 

というわけで、すべて読み終えました。
著者の「ココロ」が感じられる、とても面白い本でした。

 

最後に、素人ながら私がこれからの「ココロ」の経済学に期待するところを述べるならば、次の2つです。

ひとつは、弱い人たちに寄り添う「弱者の経済学」の復権です。
マーシャルが労働者階級のために経済学を構築したように、合理的判断というフレームから漏れ落ちてしまう弱い人間像を視野に入れた理論構築をしてほしいな、と思います。これは著者も本書の中で述べているところです。

 もう一つは、純粋な知的好奇心を研究の原動力とする「役に立たない経済学」の復権です。
一般的に経済学は景気の安定や経済成長のための学問だと思われているところがあり、それゆえいざ不況になると経済学に批判の声が浴びせられることが多いように思います。しかし、経済学もサイエンスである以上、役に立つ立たない以前に、純粋な知的好奇心、新しい知見を得ることの喜び、理論構築への情熱、こうした気持ちを根っこに持っているはずだと思います。このような気持ちを原動力とする「役立たずな経済学」ももっと発達したらいいなあ、と、思いました。